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佐藤太一郎企画その19「風のピンチヒッター’17」レポ④(ラスト)


   チンタラレポもやっと最後!夏休みの宿題がいまだに終わらない子供の気持ちがこの歳になってわかりました……ここからはカーテンコールの様子などを。


  閉幕後は拍手が鳴りやまぬうえに、やがて拍手だけではなく、徐々に立ち上がる観客が続出し、ついにはほぼ全席が立ちあがり拍手を送るという「スタンディングオーベーション」状態に!!前列から振りかえって見たときのその光景は圧巻でした。

  そしてその光景を、NGKの舞台という、主人公ミナミでいう甲子園と同様の「夢の舞台」で見れた太一郎さんは満面の笑みを浮かべながら、大きな瞳からはうっすら涙が……NGKを2日間満席にするというのは私が想像するよりもずっとずっと大変で、太一郎さん曰く「支配人に殺されやしないかとビクビクしてた」とのこと(笑)  それでもプレッシャーをはねのけ、見事に目標を達成し、奇跡を間に合わせて全力投球した太一郎さんは、やっぱりミナミそのものだなと思いました。

  太一郎さんの計らいで、この作品の作・演出を担当し、太一郎さんがかつて所属していた劇団の主催という大塚さんも舞台へ登場!「あの作品がこんな大きく伝統ある舞台で出来るなんて嬉しい」と話してくれました。太一郎さんがこの作品の初演を観たときは新宿の小劇場での公演だったそうです。

  公演が終わると出演者の方たちがあちこちに並んでいて、なかには公演での演技を見てファンになった観客たちと写真撮影や握手をしている方もいました。彼らのほとんどは太一郎さんが見出だした「今後の関西演劇界を背負うであろう人材」たちなので、これを自信にまたそれぞれの活動を精力的にこなしていくんだろうなと思います。実際、これを書いている今、リョウコ役の辻さんは短編映画のコンクールでグランプリと最優秀女優賞を受賞し、トクガワ役の田川さんも単独イベントを大成功させています!!すごいよーー!!
トシミツ役の井路端さんは「茂造の絆」にも出てらしたので、友人と一緒にご挨拶させていただきました。

  そして我らが太一郎さんには、一番大きな列が。疲れも見せず、一人一人と笑顔で気さくに応じる太一郎さん。今回、私はその優しさに甘え、あることをお願いすることに……

  長い列に並び、いよいよ私の番。

  「お疲れ様でした。あの、ちょっと、わがままなんですが、お願いが……」
「なんだい?(ニコニコ)」
「あ、あの、これを持っていただきたいんです……」

  そして私が取り出したのは、出発前に地元のガチャガチャで見つけてきた、マンボウの人形。実はこれ、両サイドをぎゅっと握ると目玉が飛び出て、太一郎さんの目とそっくりになるという……(笑)
失礼&無礼にもほどがあるこんな要求にも快く応えてくださり、しっかり目を見開いて見事にそっくりな表情でいっしょに写真を撮ってくださいました(  ;∀;)ホントニホントニスミマセン

  あと、列に並んでいる最中にどこがで見たことのあるお兄さんがいるな、と思ったら、レイちゃんでした!太一郎さんと仲よしなので観に来ていたようです。見かけることが出来てラッキーでした♪


  太一郎さんの企画は、それまでの私の中にあった演劇の「難解で複雑でセンスと学のある人が楽しむ芸術」という思い込みをぶっ壊し、「見せ方次第で様々な場面や情景を見せてくれて、老若男女が楽しめるエンターテイメント」に変えてくれました。
  今回、NGKの舞台の上は紛れもなくグラウンドで、そこをみんなが駆け抜けて、風も吹いていた。こんな風に見せることが出来るんだ、標高数センチのあの舞台の上は、別世界になるんだ、お芝居って、演劇って、すごいんだ……と改めてその魅力と面白さを教えていただきました。
 

  そして早速太一郎さんは次の企画に向けて動き出しています。次回は記念すべき20回目!楽しみです!今度こそもっと早くレポが書けたらいいな……(笑)





  




 




 

佐藤太一郎企画その19「風のピンチヒッター’17」レポ③

  すったもんだありましたが、ついにやって来た予選大会! 鼻息荒い三高ナインと、それを冷笑しながら見つめるオキタとトクガワ。

  試合が開始されますがやはり実力の差は歴然。あっという間に点差が開き、ついに「ここで三高が負けたら最後までやっても逆転の可能性はほぼないから途中で試合やめるよ」というところまで来てしまいます(そんな無慈悲なルールがあるなんて!!)。
  ここで打たれたら終わり、という場面にバッターを任されたのは、お金持ちのお坊っちゃん長嶋茂雄信者でもあるシンサク(キタノの大冒険さん)。普段の練習でも決してナイスとは言えないバッティングを披露してきた彼。しかし彼と三高ナインたちの強い想いが、長嶋氏の魂を呼び込んだ?のか、なんとラスト3球目でヒットを飛ばすミラクル発生!!

  そして今度は守備側になると、新進気鋭の問題児エース・サイゴウが父親譲りのナイスピッチングを思う存分披露。次々に星上の選手たちを空振り三振へ導きます。そのいい流れを受けて、三高ナインも絶好調!さらに、イサムが両目とも2という驚異の良視力で、無意識に次の作戦を口パクしてしまう癖があるオキタの口元を読み取るという妙技によって相手の裏をかきまくり、いつのまにやら一点獲得どころかぐんぐん点差が迫っていく!!
  準備体操くらいの気持ちで余裕をかましていたオキタやトクガワをはじめとする星上は焦りまくり、それゆえにどんどん動きが鈍くなり、そのたびに罵声と鉄拳を浴びせるオキタ。それを見てドン引きする三高ナインと観客。

  それでもなお「勝利」にのみこだわり続けるオキタは、ついにスポーツマンシップすら捨てて三高を妨害。「隠し玉」というルール違反でこそないもののかなりセコい技を繰り出したり、サイゴウに対して父親のことを持ち出して野次ってきたりなど卑怯なことばかりしてきます。

 
  それでも堂々たる投球を続けていたサイゴウですが、やがて投げるたびに顔を歪め、なにかに耐えているような素振りに。様子のおかしいサイゴウを心配するサカモトたちに、それまでずっとベンチで応援していたミナミが真実を話します。


  前日、試合を控えているため練習は早めに切り上がったのですが、補欠のミナミは試合にこそ出れなくても、少しでも上達できたらと思い、投球練習用の的の中央に10球連続当てられるようにずっと練習していました。それを居残りでやっているとき、通りがかったサイゴウがアドバイスをしつつ、10球達成の見届け人になると申し出てくれたのです。

  たどたどしく危なっかしくも、どうにか9球目まで達成したとき、やってきたのはあのトクガワ。そしてトクガワが合図すると、彼女が雇った暴漢が一斉にサイゴウに襲いかかり、ピッチャーにとって大切な腕や肩を鉄パイプで攻撃!! かつてのように暴力で振り払うにもトクガワはまたカメラを所持しており、試合出場が危うくなるのを恐れてじっと耐えたサイゴウと、なにもできずに怯えて見ていたミナミ。そしてサイゴウはミナミに、このことはメンバーやサカモトには秘密にしておけと伝えていたのです。痛め付けられたうえに連続投球によりサイゴウの肩や腕は限界寸前でした。

   サカモトがサイゴウを止め、ベンチへ入れることに。しかし補欠はミナミとキタカゼのみ。実力からして出るべきはキタカゼですが、やはりまだ踏ん切りがつかない模様。そのときミナミがフェンスの向こうで青年を発見。それはかつてキタカゼがデッドボールで怪我をさせてしまった相手。しかし彼はキタカゼに向かって笑顔で大きく手を振り続けてくれていました。許しと応援を受けたキタカゼはついにマウンドに立ちます!

   ここからはまた三高にいい風が吹き、バッターとなったキタカゼはこれまでのブランクを感じさせないほどガンガン打ちまくります。実弟の生き生きとした姿に呆然とするオキタ。盛り上がる三高ナイン。

  しかしそんなときあるアクシデントが。なんと星上の選手が投げた球がキタカゼの目元を直撃!!グラウンドに立つことが出来なくなりました。三高ナインはオキタの指示ではないかと星上に抗議しようとしますが、「きっとピッチャーの子はわざとやないんや。僕は恨まへん」と自分がかつて犯したミスだからこそわかると主張。そしてミナミに向かってあるお願いをします。

  「あとは走るだけ。次の塁まで走るだけなんや。それを、君にやってほしい。君ならできる!!」

  実際、あとの補欠はミナミだけでした。大事な大事な場面での出場決定に、戸惑い、弱気になるミナミでしたが、「お前は……ベンチ温めるために……これまで練習してきたんかぁーーッ!!!??」というサカモトの怒号と、三高ナインたちの励ましを受け、ついにグラウンドに!!

  震えながら、その時を待つミナミ。そして響き渡るバッターが球を打つ音。次の瞬間、駆け出すミナミ。その姿は父とは違い、ぎくしゃくとして決して速くはないものの、彼が走ったとき確かに風は吹いたのです。そして見事にミナミは走りきり、しっかりとベースに手が!!そしてまた、次の回では全力疾走!!父の志は、確かにミナミに受け継がれていました。

 

  そして………


  結果的には、名門星上の勝利、三高ナインの夏は早くも終わりました。それでも清々しい笑顔で互いを労う三高ナインに、オキタは皮肉混じりに「試合に勝って勝負に勝って満足か?」という言葉を吐き、それを聞いたミナミがついにガチギレ。オキタの胸ぐらを掴み「本当にあんたに勝つために俺はずっと野球を続けてやる!!」と宣言します。


   ここで舞台の照明が落とされ、ミナミとサイゴウの二人きりになり、回想しながら語っています。
  サイゴウ曰く「俺の人生は最後の最後までツイてなかった。でもこのときの夏と野球があったから、悪くない人生だったと思えた」「今は毎日親父とキャッチボールしとる。親父はまったく手加減せず豪速球投げてきよる」とのこと。明言こそされていませんが、どうやらサイゴウは若くしてこの世を去ってしまったようで……それでも楽しそうにあの夏の思い出や野球のことを語る彼を、ミナミはほほえましく見守るのでした。


  そして時は流れ、大人になったミナミは冒頭と同じように甲子園のグラウンドに立っていました__審判として!
  そして観客席には、あの夏共に汗を流し笑いあった三高の仲間たちの姿。ある者はスポーツ記者、またある者はプロ野球のオーナー、そしてまたある者は社会人野球の選手や趣味で草野球チームに所属など、皆形は違えどあの頃からずっと野球に携わって生きてきたのです。ずっと野球を好きでい続けたのです!!

   「プレイボーール!!」というミナミの掛け声と共に甲子園の試合が始まる、というところで物語は終了。最後は出演者全員で口上を述べます。

「誰かが言った
もう一度野球をしよう
誰もが頷いた
もう一度野球がしたい
その時のために
風を感じよう
その物語がはじまるまでは
風を記憶しておこう
あの夏
あの空
あの幻
風は確かに吹いていた
そして風は今も吹いている
全てはこの野球のために 」


次がほんとにほんとに最後!カーテンコール編です!!ここまできたら最後まで書くよーー!!

佐藤太一郎企画その19「風のピンチヒッター’17」レポ②


  台風5号の進路並みのチンタラ更新でごめんなさい。「風ピン」レポ続きです!


   スパルタかつ極端なまで成績主義な典型的教育ママの母親と、その母親の要求にすんなり応えて国立大にまで進んだ兄たちを持つトシミツ。実は彼はスポーツだけではなく学業も優秀な一高を受験したものの不合格。二次募集のあったこの三高へ入学したのでした。
  男勝りなサカモトですらドン引きするほどの強烈お母さんには頭が上がらず、しかも「期待に添えなかった」という落ち目があるため、いつものように論理的思考を駆使した達者な話術も使えず、命令に従い部活には寄らず塾通いをするようになるトシミツ。しかし、同じ優等生仲間で、おかっぱと眼鏡がキュートなヨシダ(四方花菜さん)がなにかとサポートをしてくれるおかげで、塾と偽って家を出て練習に参加することが出来ます。やっていくうちに、自分は自覚しているよりずっと野球が好きなんだと気づくトシミツ。このままごまかし逃げるのではなく、きちんと気持ちを伝えようと決意します。

  
  別の形で、親の大きな負の影響を受けているのがサイゴウ。実は彼の見事なナイフ投げのセンスのよさは、かつてプロ野球選手だった父親から受け継いだもの。
  父親も野球も大好きだったサイゴウを大きく変えたのは、父親に突如浮上した「八百長疑惑」。身に覚えのないその疑惑を晴らそうと父は懸命に訴えましたが、球界を追放され、マスコミから執拗に責められ、世間から叩かれ……ついに耐えきれず自ら命を絶ってしまったのでした。
  父を追い詰めた世間にも野球にも憎悪を抱き、すっかりやさぐれてしまったサイゴウでしたが、サカモトの言葉がずっと頭から離れずにいて……

 
   そして実は三高野球部には、サイゴウのようにプロ野球選手を父に持つ部員がいました。それがミナミです。
  とはいえ花形スター選手だったサイゴウの父とは違い、阪神の二軍選手だったミナミの父。しかもその後自由契約となり、この度近鉄の選手となったのでした(ミナミの転校もこのことに合わせて行われた)。
  余談ですが野球にも地理にも疎い私は長らく阪神が大阪拠点の野球団だと思っていましたが、兵庫の甲子園が本拠地なんですよね。
 
  ミナミの父はこの移籍をきっかけに、引退をすることを決意。その引退試合は息子のミナミはもちろん、キタカゼと彼に誘われたイサムも観戦。ミナミの父は最後の最後、ピンチランナーとしての出場。決して目立つポジションではないけれど、全力で走りきるその姿に、息子のミナミは父を誇らしく思うのでした。運動が苦手で気も弱く、幼い頃からいじめられ続けたミナミですが、その度にお父さんがキャッチボールをしてくれて、心が晴れ、野球が大好きになったのです。

   ミナミの父のことはキタカゼも注目しており、特に全力疾走ぶりは「ああいう野球の仕方もあるんやなって教えてくれた!すごくかっこよかった!」と絶賛するほど。
 
他にもメンバーにちょくちょくアドバイスをくれるのに、一切入部の気配がないキタカゼ。実は前の学校で、試合中に投げた球が相手選手の目元に当たるデッドボールが発生。相手は目に大怪我を負い、失明こそ免れたものの、また野球ができるほど視力が回復する可能性は低く、そのことに罪悪感を抱いたキタカゼは自分自身がプレイすることを遠ざけていました。野球が好きでやりたいという気持ちを、自ら押さえつけていたのです。


  そんなこんなで、いよいよ甲子園に向けた地区予選が始まることに。しかし神のいたずらなのか、なんと初戦が因縁の星上!!!絶対勝てるわけないと落ち込む三高野球部員。やってみなけりゃわからんだろうとサカモトが檄を飛ばしますが、それでもすでに漂う敗北ムード……

  そのとき、キャプテンのイサムがこんな提案をします。


  「ワシらが星上に勝つのは奇跡でも起きん限り無理かもしれん……それでも……せめて、一点。一点、相手から取ってみんか?いくら弱小へなちょこ野球部って言われても、それぐらいなら、できるかもしれんやろ!?このまま終るんは、悔しいんや!!」


  イサムの言葉に、うつむいていた部員たちも希望を見出だします。せめてストレート負けを避けるのなら、たった一点でも、あの星上から奪えたら……どんなに痛快か!

  トシミツは母に初めて反抗し「次の期末で学年一位を取ったら部活をやらせてくれ!!」と懇願。サイゴウは正式に入部し、早くもその驚異のスピードと命中率の投げっぷりを発揮。さらに、ずっと野球を遠ざけていたキタカゼは、ミナミの提案により「ピンチヒッター」として加わることに!!

奇跡の一点獲得に向け、それぞれ動き出します!!


 
  
 

 


 

 

佐藤太一郎企画その19「風のピンチヒッター’17」レポ①

  太一郎さんが新喜劇入団前に所属していた劇団「ランニングシアターダッシュ」の看板作品「風のピンチヒッター」。
  かつて太一郎さんは新宿の小劇場でこの作品を観たことがきっかけでその劇団に入団することを決意したほど、思い入れの強い作品なんだとか。
  そんな思い出の名作をこの度NGKで2DAYSで上演することに!!

  で、私といえば、お芝居を観ることはこの佐藤太一郎企画のおかげですっかり大好きになったけど、スポーツに関しては、運動音痴なうえ中学では美術部で高校では文芸部という超文化系で育ち、そのなかでも野球や甲子園に関しては、その高校が元女子高の流れを受け継いでいて共学になってもなお野球部そのものが存在しないというところだったものだから、はっきり申し上げて野球とは接点も興味もゼロでここまでやってきました。大人になった今もたまにラジオでやってるナイターを仕事作業中聞き流すぐらいです。
  それでも太一郎さんがやってくださるなら……と、期待と不安を持ち合わせて7月5日の公演へ行って参りました。

  二階席までぎっしり埋まったNGKで、いよいよその幕が上がると、舞台には野球のグラウンドを表現するため後方にフェンスが設置されており、中央には太一郎さんが立ち、第一声を放ちます。


   「私は今、夢の場所に立っている」


  この台詞を、満員のNGKの客席という景色を目の前に放った太一郎さん。太一郎さんの夢の場所の一部に、私もなれたんだと、もうこのときで既に嬉しさで胸がいっぱいになれました。

  そして舞台の上での「夢の場所」とは、太一郎さん演じる「ミナミ」が幼い頃から憧れていた、そして彼のように野球を愛する者なら一度はそこを訪れたいと願うであろう、あの聖地。

  そんなミナミの頭のなかに浮かぶのは、高校時代のあの夏の日々。そしてあのとき確かに吹いていた風……



   物語はミナミが兵庫県から、大阪のどこかにある「府立第三高校」__通称「三高」に転校してきたところから始まります。
  遅刻したため慌てて走るミナミは、向かいからやって来た、同じくこの日転校してきたキタカゼ(石田直也さん)とぶつかってしまい、このときお互い被っていた野球帽が脱げ、謝罪をしたあと立ち去るときお互いの野球帽を取り違えて気づかずにそのまま被ってしまいます。これが騒動のはじまりとなってしまうのです。

  野球が大好きなミナミは、入部をさせてもらおうと早速野球部を訪ねます。しかしこの三高野球部はただでさえ弱小なうえ最近では皆やる気がなく練習をサボり気味、監督からも見放され、今では真面目に練習に参加しているのはキャプテンのイサム(森崎正弘さん)と1年生のコゴロウ(山咲和也さん)のみという有り様。そんなふたりぼっちで練習しているところへミナミがキタカゼの帽子を被ったままやって来たからさあ大変。その帽子に燦然と輝く「一(漢数字で1)」  の文字を見つけ、「やった!!伝説のピッチャーが来てくれた!救世主が来た!!」と大喜びするイサムとコゴロウ。

  実はキタカゼがかつていた一高は学力も運動も超一流の名門公立高で、当然野球も強く、さらにキタカゼはそこのエースピッチャーだったのです。そのエースが転校してきた噂が流れており、イサムとコゴロウは入部を心待ちにしていたのですが、帽子のせいでミナミをキタカゼと勘違いしている模様。すぐにその勘違いに気づいたものの、二人が盛り上がっているうえに野球部には入りたいのでなかなか言い出せないミナミ。ミナミ自身は野球は大好きでも、ボールを打つことも投げることもさらには走ることも苦手な超運動音痴。バレるのは時間の問題です。

  (どうしよう……本当のことを言ったら入部させてもらえないだろうし……だからって僕が投げたらすぐその実力がバレてしまう……あーー!!神様!!助けてーー!!)


  「よんだかーーい!?」


  ミナミの心の叫びに応えてやってきたのは、草冠に白い衣を纏った、ゆたかさん演じるドリルの神様 !!この日の日替りゲストです。ここからしばらくミナミの心と脳内で、彼とドリル神の会話が繰り広げられます(その間、他の出演者は皆動きが止まっているという演出)。

  このピンチをなんとかしてほしい!と懇願するミナミに対しドリルの神様は、「とりあえず君は口が臭いからそこをなんとかしよう」と的はずれなうえ失礼すぎるアドバイスしかくれないうえに、そのことを指摘すると逆ギレする始末。「神様をバカにした罰だ!!」と神様が肩掛けバッグから取り出したのは、お馴染みマキザッパ!!ミナミの脇や乳首を攻撃していきますが彼が反応する度に「それ俺のーー!!俺がそっちーー!!」と妙な執着心を見せるのでした。普段あんなに「すな!」とか「脇やめろ!」と言ってるのに……(笑)


  結局ドリルの神様は賑やかすだけ賑やかし、ミナミのピンチは救ってもらえず。ボールを投げると相手にすら届かないポンコツコントロール具合に「体調が悪いのか」「手加減しないでくださいよ」など心配されてしまうほど。結局すぐに「この大きな目玉の転校生は最近転校してきた一高エースとは別人」ということが判明してしまうのでした。とはいえ部員不足もありひとまず入部はできたのでした。

しかしこの間違ったまま流れた噂が功を奏したのか、それまでサボりがちだった部員たちが「一高エースが来てくれたなら甲子園出場も夢ではないかも!!」と戻ってきたり、さらにはそれまで不在だった野球部顧問兼監督として元剣道部顧問のサカモト(鮫島幸恵ちゃん)が就任することに。
  男勝りなうえ興奮するとその名と同じ武士のように土佐弁を話す、愛らしい見た目と豪快な性格のギャップが強烈なサカモト。剣道は達人級でも野球に至っては「投げて打ったら走る」という超基本ルールくらいしか知らない彼女の就任に戸惑う野球部一同。

  そんなとき三高野球部にとって甲子園どころかトーナメント戦出場すら危うくなる危機が!
  
   野球部マネージャーのリョウコ(辻凪子さん)が突然他校の生徒に襲われ、そのときナイフを使って庇ってくれた三高生徒がいたのですが、この瞬間をカメラに撮られてしまったのです。この事件、実は「一高エースが転校先の三高野球部へ入部した」というガセを信じた、一高と並ぶ野球の名門でこの近辺ではお金持ち学校としても有名な私立星上高校の野球部監督オキタ(青木威さん)とそのマネージャーで星上の理事長の娘でもあるトクガワ(田川徳子さん)の仕業。
 
  そしてその写真を高野連に流されたくなければと出された条件は「三高野球部に新しく入部した転校生を退部させること」__恐らくキタカゼを追い出すための作戦なのでしょうが、実際に入部した転校生はへなちょこミナミ。「入部した転校生には代わりないし、トーナメント出れなくなるのはまずいからとりあえず退部してくれない?」なんて言われてしまい、またまた大ピンチ!!

  オキタの名を聞き激怒するサカモトと、すぐさまトクガワとコンタクトを取りに行くキタカゼ。実はオキタはキタカゼの実兄でもあり、サカモトにとってはかつては「野球も剣道もスポーツは勝ち負けではなく同じ目標を持つ仲間との繋がりを通して成長できるもの」と説いてくれた同じ一高出身の先輩だったのですが、月日が経ち赴任した星上野球部の名を守ることに固辞していくうちに「勝利にしか価値はなくそれが達成出来ない者は排除。そして手段は選ぶな」という冷酷かつときには暴力まで振るうような暴君顧問となってしまいました。
  この軍隊のような異常な厳しさに物申すためサカモトはオキタと直接対決することを決意。「勝負するためにはまず相手と同じ土俵に立たねば」とサカモトはルールもろくにわからない野球部の顧問となったのでした。

  そんなサカモトは件の騒動でナイフを振りかざしたという三高でいちばん喧嘩が強く悪い噂も絶えないヤンキーのサイゴウ(内木場圭佑さん)の元へ。 ナイフをダーツのように素早く確実に投げるその技術を、野球のピッチャーとして活かさないか?との提案をします。馬鹿馬鹿しいと鼻で笑ってその場を去ろうとしますが、「父上の仇を、野球で取ってみないか?」と言われ、目の色が変わるサイゴウ。

  一方、キタカゼはトクガワに会い、三高野球部へ入部した転校生は自分ではないこと、そして「自分はもうどの学校へ行ったとしても野球はやらないんだ」ということを伝え、問題の写真を返してもらいます。身体的な問題は特になさそうなキタカゼが野球をやらない理由を、どうやらトクガワはよく知っているようで……


  さらにさらに野球部一の頭脳派で成績も学年上位の優等生でもあるトシミツ(井路端健一さん)は、PTA会長を務める超教育熱心な母親(吉岡友見ちゃん)から「成績が落ちるから野球はさせません!!」と部活参加を厳しく禁じられてしまい……

  弱小なうえ、次々問題が発生する三高野球部、そしてミナミは、無事甲子園へ向けたトーナメントへ参加できるのでしょうか!?続きます!!相変わらず遅くてごめん!!


 


 



 

「茂造の絆」レポ 感想など

   ここからは感想・考察なんかを書いていきます。


   閉幕し、ロビーで合流した友人と泣きながら感想を話しましたが、もう「すごい、すごいね…」としか言えなかった。今はやっと落ち着けたので色んな言葉が出てくるのですが、このときの興奮と感動だと単純に「すごい」しか出てこなかった。
  
「感動した」「色々考えさせられた」………そんな言葉でも空々しくなってしまうほど、清らかで洗練された空間。それは茂しゃんが先頭に立ち、座員さんや役者さん、スタッフさんを鼓舞し、彼らがそれに全力で応えたことによる賜物。それを見ることが出来た自分はとても幸せだと思えました。

 

  茂しゃんはある雑誌のインタビューで、今回のこのお話の舞台を酒蔵にしたのは「お酒はその日の気温や気候に左右される。みんなの気持ちがひとつにならないと美味しいお酒は作れない」「色んなものを背負った人たちが集まって、ここに来てよかったって思える場所だと思う。その家族みたいな絆の生まれる雰囲気が好きだから」と話していました。
  そしてそれは、茂しゃんが仲間たちと共に作り上げて毎日のように立っている「舞台」も同じことが言えると思いました。

  
 

  今回は閉幕後にサプライズがあり、お客さんが通る道に開幕前にはなかったあるフォトスポットができています。そこに写っているのは、青空の澄み渡る沖縄で、アロハシャツを着て笑顔を向けている辻本酒造のメンバー達。もちろんナオトもいっしょです。

  これに関しては「茂造の叶わなかった夢」なのか「時間がかかっても茂造夫婦とニノミヤが出所し、ナオトもまた会えるようになって叶えられた夢」なのか、色んな捉え方が出来るな、と思いました。かなり悲しいお別れのまま本編は終わってしまったので、そこで救いを見いだすのもアリだと思います。
 
茂造がおじいちゃんになった今でもナオトとは会えているのかな?弁護士になったアンナが茂造夫婦やニノミヤの弁護をしてくれたのかな?ヨウスケとサチコもナオトのような子供が出来たかな?と想像するのも楽しいな、と思いました。


   この記事を書いているときに、ふと関ジャニ∞の「イエロー・パンジー・ストリート」という歌を思い出し、改めて歌詞を見たら(こちらです→http://sp.uta-net.com/search/kashi.php?TID=111869 )、ぜひこうなってほしいと思えました。観劇直後は切なく寂しい気分でホテルでもなかなか寝付けず、お別れ系の歌ばかり聞いていましたが、千秋楽になった今ならこの歌がいちばんぴったりだと思いました。


   「いつかこの場所でもう一度逢えたら きっとそれもHappiness!」

  「不安や悲しみの前で うつむいてるなら いつでも駆けつけよう」

   「君と僕を繋いだ線がどんな色だって きっと大切な運命に違いない」


  

 
 


 

  





  

「茂造の絆」レポ 後編

  茂造と妻ユリコの一人息子・ナオト。
 
  基本的に明るく無邪気で、勉強もスポーツも得意なのですが、常に青いジャージ・怒られると「許してやったらどーや」と言う・落ち込むサチコに「人間は顔じゃないよ」と励まそうとして「人間“の”顔じゃないよ」ととんでもない発言をする・ウザい相手には「ヒィッ!! (゚皿゚)」と叫んでビンタする……など、一幕の茂造と言動がリンクするところが多々あります。
  茂造夫妻はこのナオトを大変かわいがり、酒蔵の仲間と共に大切に大切に育てていました。


   そんなある日、夫妻が二人でのんびり談笑していると、フジオカ(吉田佳さん)という男が二人を訪ねてやって来ます。フジオカを見るなり青ざめる夫妻。

  そしてフジオカはかつて隣人であったこの夫妻に「ねぇ、俺の子供、どこにいるのか知りません?」と意味ありげに尋ねてくるのです。
  なんでもこのフジオカには5年ほど前の冬の日に忽然と姿を消した幼い息子がいて、ほぼ同時期に茂造夫妻も突然引っ越してしまったのだとか……

   ひたすら「知らない」「帰ってください」と追い出そうとする夫妻。その声を聞いて酒蔵の仲間も心配そうに様子を見に来ます。
 
  そんなとき学校から帰ってくるナオト。さらに青ざめる夫妻。どうにかフジオカから離れさせようと奥へ引っ込めさせようとしますが、隙をついてフジオカがナオトの背後のジャージを掴むと、背中が現れ、そこにはなんとも痛々しい紫色の多数のアザが……

   「見つけた……俺の、躾の、証拠……」

「……あれが躾?よく言えたもんだな!!自分が何をしたのかわかっているのか!?もう帰れ!!あの子には近づくな!!お前は父親なんかじゃないっ!!」


   茂造のただならぬ怒りに何かを感じとり、応戦し追い出す酒蔵の仲間たち。どうにかフジオカはその場を離れましたが、間違いなく何かを確信し、企んでいる様子。

   一体何があったのか?と尋ねる酒蔵の仲間たち。ナオトが完全に奥へ引っ込んだのを確認すると、茂造がついに真実を明かします。


   「ナオトは……本当は俺たちの子供じゃない。元々は、あいつの……フジオカの子供なんだ」



  かつては他所の町で暮らしていた茂造夫妻は、毎日のようにフジオカがまだ物心もつかない2歳の我が子に「躾」と称して暴力をふるい、怒号を浴びせる声、そしてそれによって激しく泣き叫ぶ幼児の声を聞いていて、なんとかしてあげられないだろうかと考えていました。
   冬のとても寒さの厳しいある日、
その子供が裸で外に放り出されているのを発見し、保護。そして、そのままフジオカに見つからないようにして、子供を連れて夫婦は茂造の実家であるこの酒蔵へ逃げてきた。その後、その子供にナオトと名付け、5年間我が子として大切に育ててきたのです。
  

  どんなにみんなと楽しく過ごしていても、心のどこかで、フジオカに見つかる日が来ないことを祈り、怯えていた茂造。ついにその日が来てしまった……と嘆きますが、それでも酒蔵の仲間たちは、「あの子は間違いなく蔵元と奥さんの子供です。みんなで守りましょう」と励まします。

  さらに同じく辻本酒造に生き別れた我が子がいるという情報を聞きつけ、フジオカの妻(島居 香奈さん)、つまりナオトの実母もやって来ます。彼女は夫の暴力に耐えきれず、幼い我が子を残して逃げてきてしまったことを悔やんでおり、現在は大手企業の社長と再婚していました。
   一目会いたい、そして出来たら自分と今の夫が引き取って、会社の跡取りにしたいと懇願する実母に茂造は「今さらなんだ!!絶対あの子は渡さない!!」と激しく拒絶。


  その直後、ぐったりとして倒れているナオトが発見され、すぐにマツダ父親の経営する病院へ。

  そしてマツダの父による診断は、あまりにも残酷なもの。ナオトには重大な疾患があり、今すぐにでも手術が必要とのこと。そしてその手術に必要なものは……「輸血」
  しかしナオトの血液型はかなり珍しいタイプのものらしく、養父母の茂造やユリコ、さらに酒蔵のメンバーで一致する者はいません。

  文字通り血の繋がりの無いことを実感させられ、悩む茂造。さらに追い討ちをかける真実が、たまたまその場に居合わせたナオトの実母により聞かされます。


  「ひとり、その血液型と同じタイプの人間を知っています……フジオカです」

  
愛しているのに、血の繋がりがないから、助けてあげられない茂造。
  愛してはいないのに、血の繋がりがあるから助けることが出来るフジオカ。
 
   そのあまりにも不条理な事実を知った茂造は、不本意ながらもフジオカを呼び出し、事情を話し、フジオカの命令で土下座をしさらには頭を踏みつけられながらもじっと耐え、ついには多額の金銭を支払うことも約束し、どうにか血液供給を承諾されました。

すべては、愛するナオトを、守るために。



  季節は春から夏へ。
  ナオトは見事手術を成功させ、お父さんとまたキャッチボールが出来るほどに快復。「これから毎日キャッチボールしような」と茂造も嬉しそう。

   そんなときまたやって来たフジオカ。命の恩人であるということとナオトに秘密をばらすことをネタに多額の金を要求してきます。
  茂造たちが困惑していると、一度は奥へ引っ込んだナオトが「おとうちゃんをいじめるな!」と小さい体ながらにフジオカに立ち向かっていきます。その絆の深さに苛立ったフジオカは、ナオトの胸ぐらを掴み、真実を話そうとします。必死で止めようとする茂造たち。なんとかナオトに聞かれないよう耳元を塞ごうとするユリコ。


  そのとき酒蔵に響く銃声。そして次の瞬間、その銃から放たれた弾はフジオカの胸へ。そして倒れるフジオカ。銃を放ったのは、日本兵時代の軍人帽を被ったニノミヤ。「お世話になりました!」と陸軍仕込みの敬礼をする彼を見て、がっくりと項垂れる茂造。自分達親子を守るため、茂造に恩義を感じているニノミヤは自ら罪を被ったのでした。
 

  その後、フジオカは病院へ搬送。重傷を負いましたが命は助かりました。そして、ニノミヤは自首をしたのでした。


   数日後、茂造は酒蔵へ実母と彼女の現在の夫である大手企業社長を呼び出しました。そしてその夫婦の前にナオトを連れてくる茂造とユリコ。この日、ナオトが着ているのはいつもの青ジャージではなく、白シャツに黒の半ズボンというきちんとした正装。わけがわからずきょとんとするナオトに、茂造は語りかけます。

  
  「あそこにいる女の人は、実はナオトのほんとうのお母さんなんだ。お母さんはナオトを産んですぐ病気になって育てられなくなっちゃったから、お父ちゃんとお母ちゃんが預かってたんだ……ずっと黙っていて、ごめんな」


  優しい嘘を交えながらも、ついに自らの口で真実を話す茂造。そして……


  「ナオトは今日から、ほんとうのお母さんと、新しいお父さんの子供になるんだよ」


  その言葉に激しく動揺するナオト。当然、ここのおうちにい続けたい、お父ちゃんとお母ちゃんとみんなで暮らしたいと訴えます。それに対して茂造は……


  「本当のことを言うと、お前は足手まといなんだ。これから仕事が忙しくなる。そのときお前がいたら邪魔なんだ。だからあちらのおうちにお世話になりなさい」


   冷たく突き放す言葉をかけるものの、目には涙が浮かんでおり、それが嘘なのは一目瞭然。ナオトは泣きじゃくりながら「いい子にしているしお手伝いもするからいさせてほしい」と訴えます。黙って背を向ける茂造。頑なに首を横に振るユリコ。それを涙を流しながら見守る酒蔵の仲間たち……
  

   「お父ちゃんのうそつきっ!!毎日キャッチボールしてくれるって言ってたのにっ!!うそつきっ!!ここにいたいっ!ここにいさせてよ!!おとうちゃんっ!!」

   「あかん!!お前はここにいたらあかん!!……早く連れていってください」


   自分を責めるナオトを連れていくよう、実母夫婦にけしかける茂造。涙を流しながら頭を下げ、実母とその夫はナオトの手を取ります。


   「おとうちゃんは、僕がいなくなって、さみしくないの?」

「………せいせいするわ」


   最後まで、嘘を貫き通す茂造。そのまま、背を向けてしまいました。そして、ついにナオトが連れていかれます。


  「おとうちゃーーん!!おかあちゃーーん!!おとうちゃーーん!!おかあちゃーーん………おとうちゃーーん!!!!」
 

  ナオトが育ての両親を呼ぶその悲しい声は、その姿が見えなくなってもなお響き続けました。耐えきれず連れ戻そうとするユリコ。そのユリコを抱き締めて制止する茂造。その大きな背中は震えていました。


  このときもう私の涙腺がかなり緩んでいて、それがナオトが茂造たちを呼び続けるところで爆発し、膝にあったタオルで目を押さえました。途中、「うっ、うっ」という声が聞こえ、なんだろうと思ったら、それは自分の嗚咽でした。生まれて初めて、演劇観賞で声を出して泣いていたのです。見回す余裕こそありませんでしたが、横や後ろからも同じような声が聞こえてきました。

  
  静まり返った酒蔵では、ユリコと酒蔵メンバーのすすり泣く声だけが響いていました。おもむろに茂造は、音楽コンテストで披露する予定の「上を向いて歩こう」を口ずさみます。


  「うえをむーいて  あーるこーう なみだが……こぼれ……ないように……おもい……だ…す……」


  歌っているうちに、ずっと堪えていた淋しさや苦しさ、そして、ナオトへの愛情が溢れ、涙を流す茂造。そんな夫に寄り添うユリコ。そしてナカジマが「しあわーせーはーくーもーのうーえにー」と続きを歌い始めると、それに続いてヨウスケ・サエキ・アンナ・サチコ・マツダも歌い始めます。みんな泣きながら、茂造とユリコを励ますように歌うのでした。


   茂造とユリコが冷たく突き放してまで、嘘をついてまで、愛するナオトを手放したのは、もう自分達がナオトを守れないと悟っていたから。
  そして、その残酷な運命の瞬間は間もなくやってきました。


   辻本酒造にやって来た二人の刑事。彼らは茂造とユリコの身元を確認すると、それぞれに手錠をかけました。

  フジオカはあのあと事情聴取をされ、騒ぎを起こしたきっかけは茂造とユリコが我が子を無断で連れ去ったことだと供述。そしてそれは、たとえ虐待から守るための行為であったとしても、法のうえではれっきとした「誘拐」という犯罪なのでした。

   抵抗することなく、連行されていく
茂造とユリコ。その二人を呆然と見つめながらも、やはり「上を向いて歩こう」を歌い続ける酒蔵の仲間たち。夫婦は大切な思い出の場所である酒蔵へ一礼し、刑事とともに去っていきました。

 
  「……くらもとぉぉぉ!!!」


  夫婦が去ったあと、酒蔵の仲間たちが悲しくも激しく茂造を呼ぶ声が響くなか、舞台は暗転。

  そしてそのまま、恒例のエンディングとなり、ここでは劇中で茂造とサエキが作ったとされる「絆」がキャスト全員で歌われました。



   2年前の「美しき謎」が父と娘の絆を確認しあい、昨年の「青春時代」が新たな夢のスタートを予感させる終わり方だったのに対し、今回はあまりにも切ないまま終わる、いわゆるバッドエンドでした。

  しかし、だからこそ、考えたり、感じたりするものがありました。


  最後はそういった感想を書いていこうと思います。
  


  

  
  

 


 


 

「茂造の絆」レポ 前編

  今年もやって来ました、新喜劇とはまた違うガチの人情芝居、茂造特別公演シリーズ!

  「茂造の絆」と題された今回の公演は、何年か前に行った茂造シリーズのリメイク版。特に今年は茂しゃんの芸歴30周年のアニバーサリーイヤーなので、気合いが例年より入りまくっているようです。

   
    友人の計らいにより最前センター席で観劇できることになり、「必ず、大きめのタオルを用意してきてね」と前々から言われてきたのでそれをきちんと膝の上に置いて、ドキドキしながら待ち、夜7時いよいよ開幕。

  第一幕はいつも通りの新喜劇。茂造は旅館のスタッフとして、相変わらず鞄を蹴飛ばしたり平気で秘密をばらしたり、借金の取り立てに来たヤクザ森にぃに無茶ぶりしたりとやりたい放題。

  そんな茂造の態度が一変したのは、家族に反対され、さらには夢の達成を目前に、彼女が妊娠してしまい悩んでいるカップルを見たとき。
  それまでヘラヘラしていた笑みは消え、厳しい口調で「お前たち、本当に子供を育てる覚悟はあるのか!?簡単なもんじゃないんだぞ……お前たちになにかあったとき、傷つくのは子供なんだ!!それをわかっているのか!?」と問いかけてきます。

 
   これまで見たことの無い茂造の表情に戸惑う一同。
実は茂造には、我が子に関して、過去に、あまりにも切ない出来事があった……


   二幕からは時を遡り、詳しい時代設定は話されませんでしたが、恐らく30~40代くらいの茂造の過去が描かれます。

    茂造は「辻本酒造」という酒蔵を経営しており、そこには父の代から世話になっている棟梁のナカジマ(要 冷蔵さん)をはじめ、ちょっと喧嘩っ早いけど男気溢れるヨウスケ(アキさん)、ニューハーフで弁護士になるための勉強もしているアンナ(伊賀さん)、いつも底抜けに明るいムードメーカーのサチコ(たまよさん)、戦時中のフィリピンでの過酷な体験から今でも軍人口調と背中を見せないためのほふく前進など独特な言動が目立つニノミヤ(平山さん)、訳あって無口だけれどとても真面目な青年マツダ(玉山詩くん)、そして茂造の妻のユリコ(村崎真彩ちゃん)と小1になる息子・ナオト(子役の福冨慶士郎くん)が、寝食を共にしながら、「絆」という名のオリジナルブランドの日本酒の製造に励んでいました。

   途中からサエキ(井路端健一さん)という元愚連隊の新メンバーが加わります。サエキは最初こそ心を閉ざしていましたが、愚連隊時代の仲間が襲撃に来たときも庇ってくれた茂造や酒蔵のメンバーたちのあたたかさに触れ、徐々に心を開いていきます。
 
  このサエキ、実はギター演奏も得意で、それを知った茂造はあることを提案します。

  「実は俺達、毎年地元の音楽コンテスト出てるんだ。お前、今年の伴奏やってくれよ」

  こうして辻本酒造全員でチームとして、サエキのギター演奏と共に「上を向いて歩こう」と、茂造作詞・サエキ作曲のオリジナルソング「絆」で勝負することに。

  「俺だってなにか目立つことやりたい!」と主張するヨウスケに対し、茂造が与えたのは……「ホース」。蛇腹になっていて、掃除機とか洗濯機に使われているアレです。
これをどう使うかというと、片方の端に口をつけ、歌の要所要所で息を吐きながら思いっきり振ると「ピュッ!!」という音が鳴るのです。
 
  カーテンコールでこのホースのことについて触れられ、なんでもこれは幼少時あまり裕福ではなくおもちゃを買ってもらえなかった茂しゃんが廃材から見つけ出して遊んだものだったとか……会場のお客さんの中にも何人かこのホースで遊んだことのある方がいて、さらに帰宅後、私の母も「音を出しはしなくても振り回していた」と話していました。「金がないぶん知恵を使って工夫してたんや」と茂しゃんは自慢げに言っていました。すげーなホースって。

  前半は酒蔵の中で起きるスタッフたちの人間模様が中心に描かれました。

  アンナは前作「青春時代」にも登場しましたが、やはり今回もその記憶力を生かし、サエキの襲撃に来た愚連隊相手にスラスラっと刑法を一言一句間違えず伝え圧倒し、さらにはピカソのやたら長ったらしい本名「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・シプリアノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード (Wikipediaより引用)」まで見事に言ってのけました。 茂しゃん曰く「このせいで移動中伊賀はやたらブツブツ言う時間が増えた(笑)でも彼ならやってくれると思った」とのこと。
 

  サチコは通算50回目のお見合いを成功させるべくみんなでミッションを遂行しますがやはりその「顔面」で断られてしまいます。
しかし実はずっと密かに想いを寄せていたヨウスケがプロポーズ!!その場で熱い抱擁とキス(!!)を交わします。
  今思うとその伏線だったのか、サチコが冒頭で中の人であるたまよさんのお馴染みのギャグ「ペローン!チーン!ドカーン!!」の一連の流れをヨウスケ相手にやっていたのですが、ヨウスケのツッコミがやたらソフトで優しく「刺激が足りないよぉっ!」と言っていました。ヨウスケ、実はまんざらじゃなかったのかも……

  マツダは実は代々医者の家系である親兄弟と確執があり、そのため自分を押し殺して声がでなくなってしまったのです。それでも、この辻本酒造に来たことで、一人前の杜氏になりたいという夢が出来ました。
 
  その想いは強く、実家に連れ戻しに来た父親(あいはらたかしさん)に「こんな大したこと無い酒」と罵倒されると顔を真っ赤にして「みんなに謝れ!!このお酒にはみんなの想いが込められているんや!!」と、ずっと封じていた声を解放して怒りをぶちまけ、さらに、杜氏は仲間と共に見つけた自分の夢だから絶対に叶える!!絶対にお父さんにも「美味しい」って心から言ってもらえるお酒を作る!!とまっすぐな瞳で宣言。父親はすぐには認めはしなくても「いつか私を唸らせるほどの酒を作ってみろ。私の舌は肥えているから、なかなか厳しいだろうがな」と、見守ってくれるようになりました。
  茂造の孫オーディションから今や特別公演常連俳優となった詩くん、ついに今回から子役枠から卒業し、本格的な大人の役者の仲間入り。元々茂しゃんが逸材と見抜いた天才児ではありましたが、年々上手くなっていく迫力と臨場感のある表情はまさに精進の賜物。これからもきっともっとすごい役者さんになっていくでしょう。
 

  様々な困難を乗り越え、絆を深めていく辻本酒造。そしてその絆が深まれば深まるほど、彼らが作るお酒の「絆」の味も深く美味しくなっていくようでした。それを支え、見守る茂造の優しくあたたかな笑顔。


しかし後半では、その茂造自身の、「親子の絆」が試される出来事が……


続きます。