nakumelo’s blog

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佐藤太一郎企画その17「THE END’16」レポ

  「ランニングマイム」てご存じですか?    文字通り「ランニングやマラソンで走っているように見せるパントマイム」なんですが、ただの足踏みじゃないんです。足を伸ばし方、腕の振り方、表情。時に正面向きから横並びへ、前から後ろへ行きまた前へ……のように演者の体を動かすといった数々の工夫を凝らすことにより、カメラワークが一切無い舞台上でも臨場感たっぷりにマラソンをしている場面を表現できます。ただしこれを演じる為にはそれこそ本物のマラソンを完走出来るほどの相当な体力が必要。
 
  そんなランニングマイムで全編お送りするという前代未聞のお芝居・佐藤太一郎企画その17「THE END’16」を観て参りました!今回はNGKのお隣に設立されたYES THEATERという地下劇場。

  私が観劇したのは初日公演なのですが見事に満席。でも平日の夜ということで、仕事や学校を終えてから来る人もいるのか、なかなか受付が間に合わず、少し時間が押していました。まだかなぁ~なんてぼんやり席で待っていると、後方からやたらでっかい「あ~~郵便物ないかなぁ~~このままじゃ配達できひん~~」と嘆く声が聞こえてきました。郵便局員の格好をしたキタノの大冒険さん(すごい名前だな…)でした。始まるまでの間、注意事項やウェーブ、観客のみんなで自分が住んでいる地域の郵便番号を言い合う(当然揃わない)など、会場を盛り上げてくれました。やがて白ジャージに白髪混じりの太一郎さんも舞台へ出てくると、会場からは拍手と歓声が!再度注意事項を伝えると、いよいよ舞台が始まります!


  舞台中央で布団を眠る太一郎さん。薄い幕の向こうでは、ひたむきに走る一人の少年。どうやらこれは夢の中。どうしても乗りたい電車があり、それに向かって走り、やっとホームまで来たそのとき、駅員に呼び止められて……というところで、けたたましく目覚まし時計のベルが鳴り、太一郎さん演じる日暮(60歳)は目が覚めます。時刻は早朝4時。
  するとそこには謎の男が。日暮の守護霊と名乗るその男(森崎正弘さん)によれば、日暮はあと12時間後の夕方4時にこの世を去る運命とのこと。今日は午後1時からは日暮にとって大事なマラソン大会が開催されることになっています。それなら悔いなく完走してみせる!と意気込んで、日暮は出掛けていきます。

OP演出で、それまでかかっていた薄い幕に「THE END’16」の文字が光で浮かび上がり、そのあと太一郎さんが走って登場!ランニングマイムをしながら走る太一郎さんに並走して、名前を書いたボードを持った役者さんがやはりランニングマイムをしており、まるでアニメやドラマのOP映像のような迫力!!他の役者さんも自分の名前を書いたボードを持って現れて走って、めちゃくちゃかっこよかったです。

   さて、マラソン前に行う日暮の仕事は、新聞配達。中学生の頃から今は亡きここの所長の立春(奥田卓さん)にお世話になり、脚力はここで鍛えられたのです。また、「新聞は刷りたての温かさを届けるために一分一秒早く届けろ!」という情熱的な志も受け継いでいました。ちなみに現所長は新喜劇座員の「とんちゃん」こと吉岡友見ちゃんが演じる美春なのですが、ほんとにあの所長さんの娘?てぐらいのーんびりな口調で笑わせてくれました。

   ウォーミングアップも兼ね、一件一件に心を込めながら人生最期の新聞配達をする日暮。その最中、ふとしたことから二人の中学生女子と出会います。ひとりは陸上部の長距離エース選手で、このあとのマラソン大会にも優勝候補で出場予定の夏美(上野みどりさん)。もうひとりは落ちこぼれ長距離ランナーで、マラソン大会にも出場予定だけどコーチからもまったく相手にされていない千秋(中島舞香さん)。そしてこの二人が所属する陸上部のコーチは、かつての日暮のライバル・暁(ドヰタイジさん)でした。 どうせキミなんか出るだけ無駄だよ、と鼻で笑われる千秋を庇い、必ず俺たちは完走してみせる!と意気込む日暮。さらに、暁にも、「本当の決着を着けるために、ちゃんとお前も出場せぇよ!」と勝負を挑みます。
  さらに、ドジが災いしてこれまでまともな写真を撮れていないスポーツカメラマンの吹雪(四方香菜さん)も日暮に心を打たれ、彼のゴールシーンを必ずカメラに収めると誓うのでした。

  ところどころで、日暮の少年時代の回想が入ります。 両親を亡くし、立春にお世話になりながら新聞配達を手伝う中学時代の日暮(山本誠大さん)は、今とは違い毎日を憂鬱に過ごす孤独で無愛想な少年。そんな彼に「いっしょに陸上部でマラソンをやろう」と誘ったのが、当時の陸上部顧問である小春(鮫島幸恵ちゃん)でした。最初こそ強引な勧誘に嫌々付き合っていた日暮でしたが、小春に憧れる気持ちと走ることで得る楽しさと爽やかさを知り、マラソンへのめり込んでいきました。この陸上部に若き日の暁(中山貴裕さん)も所属しており、大会では常に一位のエース。とにかく完走を目指す日暮は暁にとってはうっとおしい存在ではありましたが、どこか気になる存在でもありました。
  回想していくうちに、日暮に片想いしていたハイテンションカメラ女子の冬子(塩尻綾香さん)が吹雪の母親であることや、あの守護霊が酔っぱらいなどに扮して時々様子を見に来ていてくれたことなどの事実もわかってきました。

  年老いた小春は現在は丘の上の病院にいるので、日暮は大会までの空き時間に千秋と吹雪を連れて、電車に乗って小春先生へ会いに行くことに

ところで、ここまですべてのシーンで、背景のハリボテが出てくることはありません。小道具も基本は目覚まし時計・新聞・タスキ・カメラなど必要最低限のみ。あとは音楽とナレーション、そしてパントマイムや役者さんの表情などの演技によって「ここは中学校なんだな」「あぁ今電車に乗っているんだ」などが表現されます。映像のように編集ができず、限られた舞台という空間だからこそ、そしてなにより、役者さんたちの熱意と演技力があるからこそできる表現の仕方なんだと思いました。
ガラスの仮面」でマヤが体育倉庫に有るわずかなものと演技力によって、倉庫内を見事にベネチアの街に変えたあの名シーンのようでした!!

  病院に着くと、車イスに乗った小春先生がおり、そこで日暮は40年前に起きた事実を知ります。
  中学卒業後もマラソンと新聞配達を続けていた日暮は、先生の自宅にも毎朝新聞を届けていました。しかしある日、実家の都合で遠い町に引っ越すことになった先生。その先生の引っ越す当日の朝、餞としていつものように新聞を届けた日暮。しかし新聞が風にさらわれ、交差点まで落ちたそれを拾おうとした日暮はあやうく車に牽かれそうになり、それを先生は咄嗟に庇ってくれたのです。そしてこの事故がきっかけで、先生は視力を失ってしまったのでした。そして日暮にはその事実を告げずに町を去ったのです。冒頭の発車間近の電車に向かうあの夢はどうやらこのときの「先生に新聞を渡せなかった」思い出というか、後悔のメタファーだったようです。
  がっくりとうなだれ謝罪と後悔の言葉を述べる現代の日暮に対し、先生は優しく頭を撫でてくれました。そして、「目には見えなくてもあなたの足音はわかるから」と大会に向けて励まします。小春先生は20代の役も80代の役も幸恵ちゃんが演じていましたが、ハツラツとした元気な20代も、体こそ弱々しくても優しく凛とした80代も見事に演じわけていました。

 
  一方、暁もまた、大きな決断を迫られていました。中学以降もトップランナーを維持していた暁でしたが、極端なまでに「一位以外はムダ」という考えの彼は、誰かに越されるぐらいなら勝ち逃げするほうがましと、まだまだ体が充分動かせるうちに現役引退をしてしまったのでした。しかし、変わらぬ日暮の情熱に心動かされ、ふたたびスパイクを手に取り、スタート地点へ向かいます。

   午後2時になり、それぞれが様々な想いを抱え、たくさんの人が見守るなか、ついにマラソン大会がスタート!!夏美と暁はグングン進んでいくなか、日暮と千秋はあっという間に最後尾へ。それでも二人は諦めず時間内完走を目指します。やがて暁を抜きそうになる夏美。一番弟子に全力疾走で抜かれることで、暁は、清々しい気持ちでやっとトップへの呪縛から離れることが出来ました。その後は日暮とほぼ同じぐらいの位置まで遅れをとった暁ですが、「ギョロ目!」「細目!」「バーカバーカ !!」「なんじゃいクソッタレ!!」とお互いに軽口を叩きながら、けれどどこか楽しそうに走ってゴールを目指します。

  15時55分、マラソン大会と、日暮の生涯の終了時間まであと5分。夏美は暁の期待に応え見事トップ。そこから遅れたとはいえ暁も既にゴールしており、あとは日暮と千秋のみ。配達所の仲間や看護師さんに連れられた小春先生も不安そうに二人のゴールを待ちます。
  日暮より一足先に千秋がゴールしようとしたそのとき、日暮がお守替わりに渡していた赤いハチマキが風で飛ばされ、交差点の真ん中へ。なんとこの交差点は小春先生の事故が起こったまさにあの場所!!そしてハチマキを拾おうとした千秋に向かって、やはりタイミング悪く車が走ってきます!!
  あの日の思い出がフラッシュバックし、足を止める日暮。その一瞬時が止まり、守護霊が「どうなさいますか?あと少しでゴールですし、タイムリミットも迫っておりますが」と尋ねてきます。


「そんなん、決まっとるやろ……!!」


  日暮はあの日の小春先生のように、自分が千秋の前に立ち、庇う日暮。車との衝突によるダメージで体は限界寸前のボロボロのなか、あとほんの数センチまで迫ったゴールまで這いつくばります。そして、それを固唾を飲んで見守る人々。

最後の力を振り絞り、日暮がゴールへ手を伸ばした、そのとき、けたたましく鳴り響く目覚まし時計のベル。午後4時となり、無情にもマラソン大会と日暮の生涯は終了時間となってしまったのでした。


  残念やったなーと苦笑いする日暮の魂に、守護霊は新聞を渡します。明日発行されるそれには日暮が最期に遭遇した事故に関する記事が書かれていました。

  実はあのとき、倒れた瞬間、手はしっかりとゴールラインを越えていたこと、つまり「完走していた」という事実が記載されており、それはその瞬間を約束通り吹雪がカメラで撮っていたことにより判明。記事にはその写真が使われていました。
  この日暮のマラソンに捧げた情熱を伝える熱い記事は、明日の朝には刷りたてのあたたかい状態で配達所の仲間によって配達され、各家庭に届けられるのです。
  目標を達成できたことと、それを多くの人に伝えられたことで、満足した日暮は、守護霊に導かれ天国へ向い、清々しい気持ちで人生の幕引き__THE ENDとなったのでした。


  本編が終わるとお約束で出演者の方々が一斉に舞台に出てくる「カーテンコール」がありますが、あまりにも拍手が鳴りやまずなんと3回も行われました!別の日にはスタンディングオーベーションもあったそうです!!
  これでもかというほど熱く熱く暑苦しさすら感じるまっすぐすぎる情熱的な舞台でした。けれど見終わったあとには、さわやかで清々しくほっと優しい気分になり、それまで悩んでいたことがぱっと晴れてなんだかなんとでもなりそうだ!と前向きになりました。

  なんでもこの「THE END」は太一郎さんが新喜劇入団前に所属していた劇団の人気作で、今回はそれのリメイク公演だったそうです(だから今回は「’16」の表記がある)。
  そしてその後、太一郎さんご本人のFacebookにより、この「佐藤太一郎企画」は1~2年ほどお休み__「助走期間」に入ることが発表されました。もっともっと新喜劇を通して、役者さんとして演技力や知名度を高めてから、改めて挑戦してみたいとのことです。
私は今回のこの公演で佐藤太一郎企画は3回目の鑑賞で、どの公演からもたくさんの希望ややる気をもらってきました。その企画がしばらく見れないのは寂しいですが、助走のあとは必ず全力疾走してくださるはずなので、楽しみに待ちながら、新喜劇座員さんとしての太一郎さんを応援していこうと思っています。

  今回、多忙が重なり、すぐにレポが仕上げられず悩むことも多かったですが、日暮が最後までゴールを信じて突っ走ったように、どんなに遅くなっても必ず自分なりの形で完成させようと決意し、ここまでこれました!
長くなりましたが、最後までお付き合いありがとうございます!