nakumelo’s blog

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佐藤太一郎企画その18「闘う男」レポ①

  久々の佐藤太一郎企画。今回はなんと完全なる太一郎さんのみ出演のソロ舞台!ふたつのお話を10分の休憩を挟んで行います。

  場所は梅田の、赤い観覧車で有名なHEPビル内にあるシアター。入口にはこれまでの佐藤太一郎企画のポスターや舞台の様子を写した写真が飾られており、ちょっとしたギャラリーになっていました。また、太一郎さんとレディーシュガー佐藤のパネルもありました。

  ステージには灰皿と、昔懐かしの黒電話、そして飲みかけのアイスコーヒーがふたつ置かれたガラスのテーブルとソファーが設置されていました。照明が暗くなり、OPで過去の作品の映像が流れ、再び舞台が明るくなると、第1作がスタート!!


【第1作  「捨てる紙あれば。」】
 
  そこには新喜劇でよく見かける赤い原色スーツに身を包み、ソファーに腰掛け、あの大きな瞳でギョロっとこちらを睨み付ける太一郎さんが!! どうやらここは喫茶店で、我々客席側のほうには「見えない誰か」がいるようで……

  「お前わかってんのか?とんでもないことしてもうたんやぞ!?……エッ!?『落ちますよ』って……!!なんでわかんねん……目ン玉が?元々こういう目なんや!!」

  ただでさえ大きな目をさらに剥き出しにしてギョロッと睨み付ける赤スーツ太一郎。かなりお怒りの様子。そこに鳴り響く黒電話のベル。渋々受話器を取ると、先程とはうって変わってものすごく腰が低くなって謝り倒してる赤スーツ太一郎。どうやら重要なクライアントも関わっているようです。私もお客さんや工場相手によくこういう電話するなぁ……つらいよなー……なんて思ったりして眺めてました。
  通話を終え、ぐったりとまたソファーに座り込む赤スーツ太一郎。

  「……天使も大変ですねって?そりゃどーも……ならわかるよな?なんで、なんで宝くじ捨てたん!?お前の買ったあれ、一等当選してんねんぞ!?」

  なんとこのチンピラみたいな赤スーツ太一郎の正体は「天使」。そして先程の電話の相手のクライアントは彼の上司にしてこの世界の全人類の全運命を決定する「神様」なのです。そして目の前にいる「見えないけれどそこに確かにいる“誰か”」は、その神様の決めた運命により宝くじの一等当選という最高の幸運を与えられたにも関わらず、その当選券を換金前に捨ててしまい、幸運を放棄してしまった。神様の決めた運命の軌道修正のため、天使は“誰か”の説得を命じられたのでした。

  この“誰か”こと「宝くじに当選した男」は世間一般でいうかなり「いい人」らしく、これまでの実績が天使の手元にあるデータファイルに記載されています。「お年寄りに席を譲る」や「卒業して数年経った今でも母校のOBとしてイベントに積極的に参加」や「初詣には私利私欲の願いではなく昨年の感謝と今年の抱負のみを神様に伝え、『始終ご縁がありますように』と祈りを込めて45円を賽銭箱に投入」、さらに「飲み会で自分のオーダーがきちんと通っているか店員さんに確認するときの、プレッシャーを与えない声のトーンは日本一」なんだとか。ただ天使曰く「卒業して何年も経っている先輩に来られても後輩だって気まずいし、あと45円=始終ご縁はあんまし効き目がない。知り合いの狛犬が言ってた」とのこと。 (゚ヽ゚)ナンダソレ

  とにかく、これまで清く正しく生きてきたお前に神様が与えてくださった当然の権利なんだからもらっておけ!と天使は説得しますが男の気持ちは変わらず。それならばこの宝くじ一等当選がどれだけ貴重な出来事なのか知らしめてやろうと、天使は様々な例えを出すのですが……

  交通事故に遭う確率と四葉のクローバーを見つける確率は同じ。それより高い→ピンとこないからわかんない
  もし宝くじを東京ドーム2個半分の面積に並べたとして、一等当選のくじはたった1枚→男は広島出身なので東京ドームに行ったことなくて広さがわかんない
  じゃあもし宝くじがトイレットペーパーだとして→なんでそんなことすんの?
  「うああああたとえさせろよぉぉぉぉ!!!!」と怒り狂う天使。 この天使には男の説得に失敗した場合、地獄に落とされるというペナルティが待っているため、必死なのです。

  そんな天使を見かねて、なぜこれほどまで頑なに当選賞金を受けとりたくないのかをポツリポツリと話す男。理由は主にふたつ。ひとつは、結婚を控えている彼女が、宝くじ当選を告げた途端、やたらと高価な服や靴や果ては月の土地(!)まで欲しがるほど物欲にまみれてしまっていること。そしてもうひとつが、

  「漫画家になってたくさんの人を感動させる漫画を描きたい。どうせ幸せになるなら宝くじでお金持ちになるよりその夢を叶えてなりたい」 ということ。

   「そんな夢は一握りの、それこそ宝くじ一等当選よりも低い確率の幸運で才能に恵まれた人間だけが叶えられるんだ」と呆れる天使。しかし、そんな男を見てなにか感じるものがあったのか、天使は自分自身のことを語り始めます。

  天使も元々は地上で人間として生きていて、かつては役者を目指していましたが、すぐに挫折し、やがてチンピラめいたことをしているうちに、喧嘩に巻き込まれて死んでしまいました。そして空の上で天国行きか地獄行きかの審判を待つ長い長い死者の列にいたところ、「天使専門学校」なる場所のパンフレットを渡され、軽い気持ちで2年間通い、こうして上司である神様にこき使われているというのです。
 
天使のお仕事のメインは、担当された人間の「運命」を、神様が世界を動かすバランスを考慮して決定した幸福や不幸の出来事が、それらが記されたデータファイル通りに動いているかの監視。9割方は見事に書かれた通りの出来事が起こっていくのに、ごく稀に、今回の男のように、運命に背いた行動をする者がいる。あくまでも自分自身で運命を決定したい者がいる。そういう奴は天使曰く「厄介ではある。でも正直なところどういう方向に転んでも見ていておもろい」んだそうで。

  「この世界には確かに運命に背いてでも夢をつかんだ奴もいる。そいつらの夢はそれぞれ違っても、唯一の共通点は『何度失敗してもあがいてもがいて努力しまくった』こと。とにかく闘ったんや、自分自身の葛藤に。他のやつらと『覚悟』が違うんや。
………俺は、ちょっと役者うまくいかんかったら簡単に諦めてもうたからな。他人と散々喧嘩しまくっても、自分自身と喧嘩する度胸はなかった……」


  天使が懐から、ベルを取り出します。このベルは天界のアイテムで、鳴らすと一度だけ「奇跡」が起きるとのこと。もし男がここで心変わりして宝くじの当選券を取り戻したいなら、一度だけチャンスがあるのですが……

「ほんまにお前に、この幸運はいらんのやな?何がなんでも夢をつかむために、闘う覚悟はあるんやな?」

  まっすぐ前を見据えて、男に問いかける天使。そして……

  「……よし、わかったわ。そんならこれで用は済んだ。帰ってええよ。……だいじょうぶ、まかしとき」

  男を見送り、ふと手元のデータファイルをまたパラパラとめくりだす天使。そこの最終ページでふと手が止まる。そこには衝撃的な運命の予告が。


   「男は宝くじ当選後、妻の散財により多額の借金を背負う。金の切れ目が縁の切れ目で妻とは貧乏が原因で離婚。その後はひとり寂しい余生を送る」

  最高の幸運であるはずの宝くじ当選を得たあとも、その幸せが継続されることはなく、結局それによる不幸がやってくる。これが世界を動かすための、幸せと不幸のバランス配偶。神が定めた運命。  結局男が幸せになれる確証的な選択などはじめからなかったのです。
  この残酷な真実の意味を噛み締めた天使は真上に向かって大声で叫びます。


   「神様……おいおっさん!!聞こえてんねやろ!?これがお前の決めた結末か!運命か!バランスか!!……このベル、一回だけ鳴らしてええねんな?そしたら、一回だけ奇跡が起こんねんな!?そんなら、その奇跡でこっから覚悟持って闘う男の生き様、見ておけや!!」


  ベルを高々と掲げ、神様に見えるようにチリリーン!と鳴らす天使。

   「闘う男に!幸せが訪れますように!!」


  祈りの言葉を口にし、どっかりとソファーに座る天使。次の瞬間、


   「……あ!いやあの、オーダーじゃないんです!ハハッ、ごめんなさいねぇ~……え?俺がこの店がオープンして一万人目の客?へぇ~……え?記念に全部タダ?ほんま!?ありがとう!!」

  笑顔で再び着席する天使。一瞬考え込んで


  「……いや『闘う男』て俺のことちゃうねん!! (゚皿゚)」

  神に喧嘩を売ったこの男は果たしてどんな運命が待ち受けているのか……というところで1作目は終了。


  第2作のことは改めてレポートします!