nakumelo’s blog

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「茂造の絆」レポ 後編

  茂造と妻ユリコの一人息子・ナオト。
 
  基本的に明るく無邪気で、勉強もスポーツも得意なのですが、常に青いジャージ・怒られると「許してやったらどーや」と言う・落ち込むサチコに「人間は顔じゃないよ」と励まそうとして「人間“の”顔じゃないよ」ととんでもない発言をする・ウザい相手には「ヒィッ!! (゚皿゚)」と叫んでビンタする……など、一幕の茂造と言動がリンクするところが多々あります。
  茂造夫妻はこのナオトを大変かわいがり、酒蔵の仲間と共に大切に大切に育てていました。


   そんなある日、夫妻が二人でのんびり談笑していると、フジオカ(吉田佳さん)という男が二人を訪ねてやって来ます。フジオカを見るなり青ざめる夫妻。

  そしてフジオカはかつて隣人であったこの夫妻に「ねぇ、俺の子供、どこにいるのか知りません?」と意味ありげに尋ねてくるのです。
  なんでもこのフジオカには5年ほど前の冬の日に忽然と姿を消した幼い息子がいて、ほぼ同時期に茂造夫妻も突然引っ越してしまったのだとか……

   ひたすら「知らない」「帰ってください」と追い出そうとする夫妻。その声を聞いて酒蔵の仲間も心配そうに様子を見に来ます。
 
  そんなとき学校から帰ってくるナオト。さらに青ざめる夫妻。どうにかフジオカから離れさせようと奥へ引っ込めさせようとしますが、隙をついてフジオカがナオトの背後のジャージを掴むと、背中が現れ、そこにはなんとも痛々しい紫色の多数のアザが……

   「見つけた……俺の、躾の、証拠……」

「……あれが躾?よく言えたもんだな!!自分が何をしたのかわかっているのか!?もう帰れ!!あの子には近づくな!!お前は父親なんかじゃないっ!!」


   茂造のただならぬ怒りに何かを感じとり、応戦し追い出す酒蔵の仲間たち。どうにかフジオカはその場を離れましたが、間違いなく何かを確信し、企んでいる様子。

   一体何があったのか?と尋ねる酒蔵の仲間たち。ナオトが完全に奥へ引っ込んだのを確認すると、茂造がついに真実を明かします。


   「ナオトは……本当は俺たちの子供じゃない。元々は、あいつの……フジオカの子供なんだ」



  かつては他所の町で暮らしていた茂造夫妻は、毎日のようにフジオカがまだ物心もつかない2歳の我が子に「躾」と称して暴力をふるい、怒号を浴びせる声、そしてそれによって激しく泣き叫ぶ幼児の声を聞いていて、なんとかしてあげられないだろうかと考えていました。
   冬のとても寒さの厳しいある日、
その子供が裸で外に放り出されているのを発見し、保護。そして、そのままフジオカに見つからないようにして、子供を連れて夫婦は茂造の実家であるこの酒蔵へ逃げてきた。その後、その子供にナオトと名付け、5年間我が子として大切に育ててきたのです。
  

  どんなにみんなと楽しく過ごしていても、心のどこかで、フジオカに見つかる日が来ないことを祈り、怯えていた茂造。ついにその日が来てしまった……と嘆きますが、それでも酒蔵の仲間たちは、「あの子は間違いなく蔵元と奥さんの子供です。みんなで守りましょう」と励まします。

  さらに同じく辻本酒造に生き別れた我が子がいるという情報を聞きつけ、フジオカの妻(島居 香奈さん)、つまりナオトの実母もやって来ます。彼女は夫の暴力に耐えきれず、幼い我が子を残して逃げてきてしまったことを悔やんでおり、現在は大手企業の社長と再婚していました。
   一目会いたい、そして出来たら自分と今の夫が引き取って、会社の跡取りにしたいと懇願する実母に茂造は「今さらなんだ!!絶対あの子は渡さない!!」と激しく拒絶。


  その直後、ぐったりとして倒れているナオトが発見され、すぐにマツダ父親の経営する病院へ。

  そしてマツダの父による診断は、あまりにも残酷なもの。ナオトには重大な疾患があり、今すぐにでも手術が必要とのこと。そしてその手術に必要なものは……「輸血」
  しかしナオトの血液型はかなり珍しいタイプのものらしく、養父母の茂造やユリコ、さらに酒蔵のメンバーで一致する者はいません。

  文字通り血の繋がりの無いことを実感させられ、悩む茂造。さらに追い討ちをかける真実が、たまたまその場に居合わせたナオトの実母により聞かされます。


  「ひとり、その血液型と同じタイプの人間を知っています……フジオカです」

  
愛しているのに、血の繋がりがないから、助けてあげられない茂造。
  愛してはいないのに、血の繋がりがあるから助けることが出来るフジオカ。
 
   そのあまりにも不条理な事実を知った茂造は、不本意ながらもフジオカを呼び出し、事情を話し、フジオカの命令で土下座をしさらには頭を踏みつけられながらもじっと耐え、ついには多額の金銭を支払うことも約束し、どうにか血液供給を承諾されました。

すべては、愛するナオトを、守るために。



  季節は春から夏へ。
  ナオトは見事手術を成功させ、お父さんとまたキャッチボールが出来るほどに快復。「これから毎日キャッチボールしような」と茂造も嬉しそう。

   そんなときまたやって来たフジオカ。命の恩人であるということとナオトに秘密をばらすことをネタに多額の金を要求してきます。
  茂造たちが困惑していると、一度は奥へ引っ込んだナオトが「おとうちゃんをいじめるな!」と小さい体ながらにフジオカに立ち向かっていきます。その絆の深さに苛立ったフジオカは、ナオトの胸ぐらを掴み、真実を話そうとします。必死で止めようとする茂造たち。なんとかナオトに聞かれないよう耳元を塞ごうとするユリコ。


  そのとき酒蔵に響く銃声。そして次の瞬間、その銃から放たれた弾はフジオカの胸へ。そして倒れるフジオカ。銃を放ったのは、日本兵時代の軍人帽を被ったニノミヤ。「お世話になりました!」と陸軍仕込みの敬礼をする彼を見て、がっくりと項垂れる茂造。自分達親子を守るため、茂造に恩義を感じているニノミヤは自ら罪を被ったのでした。
 

  その後、フジオカは病院へ搬送。重傷を負いましたが命は助かりました。そして、ニノミヤは自首をしたのでした。


   数日後、茂造は酒蔵へ実母と彼女の現在の夫である大手企業社長を呼び出しました。そしてその夫婦の前にナオトを連れてくる茂造とユリコ。この日、ナオトが着ているのはいつもの青ジャージではなく、白シャツに黒の半ズボンというきちんとした正装。わけがわからずきょとんとするナオトに、茂造は語りかけます。

  
  「あそこにいる女の人は、実はナオトのほんとうのお母さんなんだ。お母さんはナオトを産んですぐ病気になって育てられなくなっちゃったから、お父ちゃんとお母ちゃんが預かってたんだ……ずっと黙っていて、ごめんな」


  優しい嘘を交えながらも、ついに自らの口で真実を話す茂造。そして……


  「ナオトは今日から、ほんとうのお母さんと、新しいお父さんの子供になるんだよ」


  その言葉に激しく動揺するナオト。当然、ここのおうちにい続けたい、お父ちゃんとお母ちゃんとみんなで暮らしたいと訴えます。それに対して茂造は……


  「本当のことを言うと、お前は足手まといなんだ。これから仕事が忙しくなる。そのときお前がいたら邪魔なんだ。だからあちらのおうちにお世話になりなさい」


   冷たく突き放す言葉をかけるものの、目には涙が浮かんでおり、それが嘘なのは一目瞭然。ナオトは泣きじゃくりながら「いい子にしているしお手伝いもするからいさせてほしい」と訴えます。黙って背を向ける茂造。頑なに首を横に振るユリコ。それを涙を流しながら見守る酒蔵の仲間たち……
  

   「お父ちゃんのうそつきっ!!毎日キャッチボールしてくれるって言ってたのにっ!!うそつきっ!!ここにいたいっ!ここにいさせてよ!!おとうちゃんっ!!」

   「あかん!!お前はここにいたらあかん!!……早く連れていってください」


   自分を責めるナオトを連れていくよう、実母夫婦にけしかける茂造。涙を流しながら頭を下げ、実母とその夫はナオトの手を取ります。


   「おとうちゃんは、僕がいなくなって、さみしくないの?」

「………せいせいするわ」


   最後まで、嘘を貫き通す茂造。そのまま、背を向けてしまいました。そして、ついにナオトが連れていかれます。


  「おとうちゃーーん!!おかあちゃーーん!!おとうちゃーーん!!おかあちゃーーん………おとうちゃーーん!!!!」
 

  ナオトが育ての両親を呼ぶその悲しい声は、その姿が見えなくなってもなお響き続けました。耐えきれず連れ戻そうとするユリコ。そのユリコを抱き締めて制止する茂造。その大きな背中は震えていました。


  このときもう私の涙腺がかなり緩んでいて、それがナオトが茂造たちを呼び続けるところで爆発し、膝にあったタオルで目を押さえました。途中、「うっ、うっ」という声が聞こえ、なんだろうと思ったら、それは自分の嗚咽でした。生まれて初めて、演劇観賞で声を出して泣いていたのです。見回す余裕こそありませんでしたが、横や後ろからも同じような声が聞こえてきました。

  
  静まり返った酒蔵では、ユリコと酒蔵メンバーのすすり泣く声だけが響いていました。おもむろに茂造は、音楽コンテストで披露する予定の「上を向いて歩こう」を口ずさみます。


  「うえをむーいて  あーるこーう なみだが……こぼれ……ないように……おもい……だ…す……」


  歌っているうちに、ずっと堪えていた淋しさや苦しさ、そして、ナオトへの愛情が溢れ、涙を流す茂造。そんな夫に寄り添うユリコ。そしてナカジマが「しあわーせーはーくーもーのうーえにー」と続きを歌い始めると、それに続いてヨウスケ・サエキ・アンナ・サチコ・マツダも歌い始めます。みんな泣きながら、茂造とユリコを励ますように歌うのでした。


   茂造とユリコが冷たく突き放してまで、嘘をついてまで、愛するナオトを手放したのは、もう自分達がナオトを守れないと悟っていたから。
  そして、その残酷な運命の瞬間は間もなくやってきました。


   辻本酒造にやって来た二人の刑事。彼らは茂造とユリコの身元を確認すると、それぞれに手錠をかけました。

  フジオカはあのあと事情聴取をされ、騒ぎを起こしたきっかけは茂造とユリコが我が子を無断で連れ去ったことだと供述。そしてそれは、たとえ虐待から守るための行為であったとしても、法のうえではれっきとした「誘拐」という犯罪なのでした。

   抵抗することなく、連行されていく
茂造とユリコ。その二人を呆然と見つめながらも、やはり「上を向いて歩こう」を歌い続ける酒蔵の仲間たち。夫婦は大切な思い出の場所である酒蔵へ一礼し、刑事とともに去っていきました。

 
  「……くらもとぉぉぉ!!!」


  夫婦が去ったあと、酒蔵の仲間たちが悲しくも激しく茂造を呼ぶ声が響くなか、舞台は暗転。

  そしてそのまま、恒例のエンディングとなり、ここでは劇中で茂造とサエキが作ったとされる「絆」がキャスト全員で歌われました。



   2年前の「美しき謎」が父と娘の絆を確認しあい、昨年の「青春時代」が新たな夢のスタートを予感させる終わり方だったのに対し、今回はあまりにも切ないまま終わる、いわゆるバッドエンドでした。

  しかし、だからこそ、考えたり、感じたりするものがありました。


  最後はそういった感想を書いていこうと思います。