佐藤太一郎企画その20 「グッド・コマーシャル」レポ①
今年3回目の佐藤太一郎企画は、なんとルミネでの東京公演!!ずっとアンケートに「関東でもやってください」と頼んできてよかった!!
演目は企画のなかでも屈指の名作と言われている「グッド・コマーシャル」!!なにかと世間をお騒がせのキングコング西野亮廣氏作の小説が原案のお芝居だそうです。
舞台の上には既にセットが出来上がっており、そこはかなり年季の入った和室。上手には小さな窓付き。畳の上にはいくつか段ボールが置かれており、壁には「アメリ」や「ロボコップ」といった名作映画のポスターとともに、なんとも意味深な言葉の掛け軸が……
【縛られてからが勝負】
【叩かれても笑い続けろ】
【その痛みを体に刻み込め!】
……部屋主はドMなのかな?と一抹の不安を感じながら、部屋入り口である下手の上を見つめると、なんと輪の形に結ばれたロープが天井からぶら下がってる!!あの形は、そう、あの行為をするための……
開演と共に舞台は暗くなり、そのロープだけがぼんやりした光に吊るされると、そこにやって来たのは太一郎さん演じる、この部屋主の木下。とあるテレビ番組製作の下請け会社でADとして激務をこなしている青年。
木下は思い詰めた顔で椅子の上に立ち上がり、例のあのロープの輪に自身の首をかけようとします。が、直前で「これ絶対苦しいもん!!」と諦め、それならナイフで…と腕に刺そうとしますが、やはり「絶対痛いもん!!」と断念。でももう生き地獄にはいたくない。悩む木下。
そのとき、突然部屋に入ってくるニット帽とサングラスの男(プリマ旦那・野村さん)。彼の手には……ピストル!!
驚く木下に、大人しくするよう促すと、グラサン男は窓を開け、外に向かって叫びます。
「おいよく聞け!!俺はここの住人を人質に取った!!このピストルがあれば一発でこいつはあっという間にあの世行きや!!」
なんとグラサン男の正体は強盗!!木下は人質になってしまったのです!!……が、あるワードを聞いて目を輝かせる木下。さらに窓の外に向かって叫ぶ強盗。
「身代金一千万と逃走用のバイク用意せぇ!!でないとこいつを殺す!!」
「おねがいしまっす!!」
「!? Σ(゚ヽ゚)」
人質からの思いがけない反応に慌てて窓を閉め、振り返り木下を見つめる強盗。木下の目には怯えや恐怖はなく、キラキラと希望に満ちており、強盗の手にあるピストルを見つめます。
「……そのピストルで撃ってくれたら、僕は、苦しまずあっという間に死ねるんですよね?よかった、これでやっと死ねる……さぁ!!一発ぶち抜いちゃってください!!」
人質の斜め上過ぎるリクエストに強盗は大混乱。部屋を見回すと、あの輪っか状に括られたロープ、そして果物を剥くためではない目的で置かれたナイフを発見。さらにテーブルには一枚の紙があり、そこにはこんな文面が……
【先立つ不幸をお許しください】
やっとこの人質がよりによって自殺志願者だと理解する強盗。どうやら殺すつもりなど最初からなかったようで、いくらなんでもそりゃだめだと木下を説得しますが、木下は聞き入れず「お願いだから殺してください!!」と懇願するばかり。
仕方なく強盗は取引を持ちかけます。「お前を楽に死なせてやるために、お前も俺の言うことを聞いてくれないか?」と。承諾する木下。
一先ずは外にいる警官に①強盗に人質に取られた②人質は身代金一千万と逃走用のバイクを要求している③要求に答えないと人質である自分は殺される、ということを伝えてくれと指示する強盗。張り切る木下。①と②は無事に言えたものの、③の最後で「僕は殺してもらえません!」と余計なワードを言ってしまったがために台無しに。ぶちギレる強盗。しょげる木下。
そもそもなんでお前そんなに死にたいわけ?と強盗は聞き出します。
部屋に飾られた名画のポスターからもわかるように、映画が大好きな木下は、映画監督を夢見ていました。監督となって、その一言で役者もスタッフも一斉に動き出して物語が始まる「アクション!!」という魔法の呪文を唱えてみたかった、と言うのです。
そしてそのための勉強として映像製作に携わる会社に入ったのですが、実際にはTV局からの孫請けのような形の仕事ばかりで、特に下っ端の木下は長年ADとして毎日毎日、本人曰く「馬車馬のように」働かされていたのです。昼夜を問わない激務による疲れと、いつまでたっても夢に近づくことのできない絶望感から、ついには自殺願望が芽生えてしまったのでした。
そんな木下は今度は強盗に、なぜこんな大がかりな事件を起こしたのかと聞きます。強盗は元々は普通の生活を送っていた一般人でしたが、元々文章を書くのが好きだったので、ふとした思い付きから小説を執筆。出版社へ応募したところ、編集部から連絡が来て、本を出版することに。
しかしそれは本人名義ではなく、有名なある作家の名前を借りて。つまりゴーストライター契約を持ちかけられたのでした。
その作家と作品名を聞き驚く木下。なんとその作品は増刷を重ね何万部も飛ぶように売れ、実写映画化も決定している今話題の大ヒット作なのです。よく見るとセットの本棚にその本が並べられているのを後から発見し、細かいところまで良くできているなぁと感心しました。
しかし契約時に交わした取り決めにより、本来執筆した強盗が貰える印税は「初版の」売上の数%。なのでどんなに増刷しても映画化となっても印税も手柄も有名作家のもの。そうとは思わず大金が入り込むと思い込んで浮かれてギャンブルに明け暮れ、気づけば一千万円という多額の借金を抱え、ここまできたら死ぬ気でやってやろうとこの計画を立て実行したのでした。
木下もその作品は読み終えており、特にラストシーンの「長い旅から帰ってきた主人公に母親がいつもと変わらず夕飯を振る舞ってくれる」ところがたまらなく好きだと本当の作者である強盗に興奮ぎみに感想を述べます。しかし作者曰く「あの作家が勝手にカットしやがったけど、本当はもう少し長いラストシーンだった」とのこと。
その夕食を終えたあと、主人公は母親が自分がいない間も毎日一人分多く、つまり家出をした自分の分も夕飯を作ってくれていたことを知ります。それを受けて母親に「もう自分は大人なんだから自分の食事くらいなんとか出来る。無理して一人分多く作る必要ないよ」と話しますが、母親は笑ってこう答えます。
「お母さんが作っていたのは“一人分多く”じゃなくて、“家族全員分”なの。だから必要ないことないのよ」
そこに強盗作者は「この世に必要のない人間などいない。必ずなにかを成し遂げ果たすためにこの世に生まれ存在している」というメッセージを込めたのでした。
気づくと木下は俯き、体を震わせていました。そして顔をあげると、その大きな瞳からは滝のような涙が!!(ほんとに太一郎さん涙流してるのがよく見えた) 大好きな作品の本当の作者からのメッセージに心を打たれ、死ぬことをやめしっかり夢に向き合って生きる!!きっといつか「アクション!!」と叫んでみせる!!と決心します。それを聞いて安心する小説家強盗。いい作品書いて良かったね!
生きる希望を取り戻してくれたお礼に木下が強盗小説家に渡したのは一枚の紙。仕事で大量買いした宝くじがあり、そのなかに当選した枚数はいくつあるか数えておけと命じられたようなのです。
そのなかに一枚、見事当選したものがあり、その金額は……
「さすがに一等ではないんですが、一千万円はあるはずです!これよかったら受け取ってください!!」
……なんで早く出さないの、
それ!!! (゚皿゚)
いよいよ人質をとってまで強盗した理由がなくなったゴーストライター小説家の顔は真っ青!!表には待機する警官や野次馬が大勢おり、さらにはテレビ中継まで始まってしまいました。
さらに警察は、いつまでたっても動きを見せない犯人に業を煮やし、ある人物にすべてを託すことを計画していました。
この密室から、果たして強盗小説家は脱出できるのでしょうか!?続きます!!